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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)188号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、周知慣用技術ではない第一の技術ないし第三の技術を周知慣用技術であると誤認した結果、本願発明は、第一引用例及び第二引用例の記載事項並びに右周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、右主張は、以下に説示するとおり、理由がないというべきである。

前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願発明の願書並びに添付の明細書及び図面)及び第三号証(昭和五九年三月二八日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、火災発生時に自動的にスラツトカーテンを降下させる防煙シヤツター等自動降下シヤツターにおける自動降下装置に関する発明であつて、従来のカーテン自動降下機構方式は、小型直流モータによつて作動されるブレーキ開放機構より成る自閉器SをシヤツターケースL内に設け、かつ、電動及び手動によるカーテン巻取降下起動機構を内装する開閉機箱B内に、外部の適所に配設されて煙又は熱を検出する感知器に達成された感知器連動部材Tを装着し、自閉器Sをワイヤを介して該感知器連動部材Tにより作動させるようにしたものであるが(別紙図面(一)の第1図参照)、このような構成では、自動降下機構の保守点検に際し、いちいちシヤツターケースLの蓋を脱着したり、あるいは各部について直接セツト、リセツトの操作をしなければならず、作業が面倒である等の欠点があり、また、ワイヤW結合方式は作動の信頼性に欠けるという難点があり、更にまた、火災時には停電を伴うことが多いが、前記自閉器Sを構成するモータは、その作動に比較的大きな電力を必要とし、肝腎の火災停電時にはしばしば作動しないという問題点があつたことから、本願発明は、保守点検作業が容易で、かつ、自動降下作動の信頼性の高い防煙シヤツターを提供することを目的とし、本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成、特に、専用の応急予備電源により作動されるソレノイド(8)により起動するシヤツター非常降下用の自閉器を手元の開閉機箱内に設け、かつ、シヤツター非常降下作動状態をばね(18)によつてロツクするロツクレバー(17)の機構を右開閉機箱内に設けるように構成(別紙図面(一)中第2図ないし第4図参照)したことにより、この種火災時における非常降下機能を有する自動降下シヤツターの保守点検作業が容易となり、ロツク作動により専用の応急予備電源の電力の消費も少なくなり、火災時においてしばしば発生する停電時においても確実にシヤツターが非常降下する等シヤツターの閉塞作動の信頼性が高まり、その取扱性、作動性及び経済性を向上させるという作用効果を奏することが認められる。

他方、第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの技術的事項が記載されていること、及び本願発明の開閉器箱内に内装したブレーキ開放機構の具体的構造が第二引用例記載のもののブレーキ開放機構の構造とほぼ一致し、本願発明がソレノイドの作動源を特に専用の応急予備電源とした点及びソレノイドを別設の煙又は熱感知器等の作用によつて作動させるようにした点で第二引用例記載のものと相違すること、第一の技術ないし第三の技術が周知慣用の技術であることを示すものとして被告が挙示する乙第一号証の一ないし三(昭和四五年社団法人日本火災学会発行に係る「火災」第二〇巻第一号の表紙、第一三頁ないし第二二頁、奥付)、第二号証の一ないし三(昭和四四年同学会発行に係る「火災」第一九巻第四号の表紙、第一九七頁ないし第二〇〇頁、奥付)、第三号証(特公昭五〇―一三二号特許公報)が、本願発明の特許出願前国内において頒布された刊行物であること、及び乙第一号証の二に第一の技術ないし第三の技術が、乙第二号証の二及び第三号証に第二の技術が記載されていることは、原告の認めるところである。

ところで、原告は、本件審決が、第一の技術ないし第三の技術を周知慣用技術であると認定判断したのは誤りである旨主張するので、この点について検討するに、成立に争いのない乙第一号証の二によれば、そこには、「火災感知器に対する連動装置」と題する座談会の発言内容が「防火戸の煙検出器連動閉鎖機構 (1)シヤツターの場合例」及び「連動作動の詳細」という解説図(別紙図面(四)参照)とともに掲載されていること、その発言内容をみるに、司会者の「火災を的確にとらえる手段について技術的な開発が必要だということでしたが、業界では今日、この問題がどういうふうに解決されつつあるか」(同号証第一五頁右欄)との発言に対する鈴木シヤツター工業株式会社の助川氏の「シヤツターは温度ヒユーズの溶断によつて自閉する従来の方式から脱皮して、煙で連動する方式を皆さんといろいろ研究してきたのですが、煙感知器は電源がまず生きているということが前提です。(中略)それで、今度は連動してシヤツターを降ろすということが考えられるようになつた。その機構は温度ヒユーズを感知器の作動に置き換えたもので、それにもとづき、ブレーキをゆるめるわけです。(解説図参照)……」と答え、次いで、司会者の「具体的に開発されているというお話でした。解説図にも示されてあるように、ソレノイドを利用した機構のことと思いますが、感知器のほうについて阿部さんからお話をお願いします」との発言に対するニツタン株式会社の阿部氏の「一昨年の暮から話があつて、シヤツター工業会と報知器工業会の両工業会により検討した結果、私どものビルで模擬実験をしたのですが、意外に防煙効果があつた。シヤツターを天井高の半分降ろすと、数%しか煙がいかない。シヤツターのところで煙の逆転することが認められた。従来の火災報知器としての煙感知器をシヤツターの連動用にしたわけです。……煙感知器には一種、二種、三種と厳格な規定がございますが、シヤツターの場合は、一種では早すぎる。値段の面からいつて二種、三種にまたがるような感度幅を広げることでコストダウンを計りました。それから、火災報知器であると、非常電源であるとか、チエツクボタンと二種、三種の安全側設計になつていますが、こういうものを簡略にする。(中略)この面からは火災報知器と同等の腐蝕・老化・繰り返し試験などに合格するような製品が、一応開発され、シヤツター・火災両工業会では建設省のほうに先日認定依頼する段階まできたわけです。……」との発言があることが認められ、以上の事実に徴すれば、上掲乙号証の解説図に記載されたシヤツターの煙検出器連動閉鎖機構は、当時研究開発されたばかりのものであると認められるから、そこに記載されている第一の技術ないし第三の技術が右座談会が開かれた当時の周知技術ないし慣用技術を示すものといい得ないことは明らかである。しかしながら、一方、前掲乙第一号証の二、成立に争いのない乙第二号証の二、第三号証(特願昭五〇―一三二号公報)、甲第六号証(昭和六〇年日本火災学会発行の「火災」第三五巻第六号)、第七号証(同学会事務局長作成のメモ)及び第八号証(同学会発行に係る昭和五〇年一一月三〇日現在の同会会員名簿)によると、<1>社団法人日本火災学会の学会誌「火災」は、同学会の会員だけに配布することを原則とするものであるが、同誌は年六回発行され、国立国会図書館にも継続的に受入所蔵されて一般の縦覧に供されており、第二〇巻第一号(前掲乙第一号証の一ないし三)は昭和四五年二月五日に、第一九巻第四号(前掲乙第二号証の一ないし三)は昭和四四年一一月一日に同図書館に受け入れられていること、<2>同学会は、「火災および防災・消火に関する研究の促進および連絡をはかり、もつて学術の発展と社会の福祉に寄与すること」を目的とし(定款第3条)、右目的を達成するために、「(1)研究発表会・研究会の開催……(3)会誌及び図書の刊行」等の事業を行う社団法人であつて、昭和五〇年一一月三〇日現在(本願発明の特許出願後約五か月を経過した時点)の会員数は、賛助会員を含めて約二〇〇〇名で、会員は全国に分布しており、シヤツター関連企業、防災関連企業、防災・消防・シヤツター関連の官公署及び諸団体、建設会社、保険会社、建築材メーカー等の企業並びにそれらの事業にたずさわつているものと推認し得る個人等によつて構成されていること、<3>前掲乙第一号証の二に掲載されている「火災感知器に対する連動装置」と題する座談会は、建築基準法施行令の一部改正により、防火・防煙区画、内装不燃化、避難施設(避難階段・廊下・出入口などの避難路)などに関する規定の整備強化がなされたこと、特にシヤツターに関して熱感知方式の自動閉鎖を原則としたことを受けて開かれた座談会で、当時シヤツター関連企業、防災関連企業、建築関係企業等において当然に大きな関心がもたれるべき事項を内容とし、右座談会には、消防関係者や建築関係者のほかシヤツター関連企業の関係者も参加しており、前掲乙第一号証の二に掲載された解説図に記載されたものは、そうした法令の改正に沿うようにシヤツター工業会も関与して開発されたものであること、<4>右座談会の発言内容及び右解説図を掲載した「火災」第二〇巻第一号(前掲乙第一号証の一ないし三)の発行後本願発明の特許出願までに、約五年余を経過していることが認められ、しかも、原告自身第一の技術を従来技術として認識して本願発明の特許出願をしていることは、本願発明についての前記認定から明らかである。また、前掲乙第二号証の二及び第三号証に第二の技術が記載されていることは、前示のとおり原告の認めるところ、右乙第二号証の二の記事は、昭和四四年三月一〇日公布の消防法施行令の一部を改正する政令(昭和四四年政令第一八号)及び同月二八日公布の同施行規則の一部を改正する省令(昭和四四年自治省令第三号)による煙感知器の設置基準等の解説記事であつて、非常予備電源を設けることが法令上義務づけられたこと等が記載されていることが認められ、また、前掲乙第三号証によれば、同号証に記載の発明は、その出願公告は、昭和五〇年一月七日であるが、本願発明の特許出願の約五年前で前掲乙第一号証及び第二号証の各二の記事掲載後半年余を経ない昭和四五年四月三日に特許出願されたものであつて、具体的には、シヤツター用ブレーキの開放を自動的に行わせる自動閉鎖用ブレーキ開放装置において、感知器に予備電源を設けることが記載されていることが認められる。叙上認定の事実関係を総合すれば、第一の技術ないし第三の技術は、それぞれ本願発明の特許出願前にシヤツターの技術分野において本件審決認定のとおり周知又は慣用の技術となつていたものと認めるのが相当である。

原告は、(一)乙第一号証及び第二号証の各一ないし三が社団法人日本火災学会発行の学会誌で、数的にも技術分野的にも限定された会員に配付することを原則とするものであり、乙第三号証が特許庁発行に係る特許公報であることから、かかる乙号各証の記載内容が直ちに周知技術又は慣用技術であるということにはならず、また、(二)右乙号各証の記載内容をみても、乙第一号証の二に記載されているのは、研究中の試験設備と推定され、また、乙第二号証の二には、煙又は熱感知器の電源として専用の応急予備電源が使用されることが示されているだけで、その具体的構成及び自動降下シヤツターへの適用については示されておらず、乙第三号証には、煙又は熱感知器及び予備電源としての蓄電池の構成が示されてはいるが、感知器によつて作動するのはギヤードモータであつて、ソレノイドではなく、ギヤードモータを含む感知器連動部材はシヤツター巻取ドラム軸の外周に配設されていて開閉器箱内に設けられているものではない旨、(三)更に、乙第二号証の二及び第三号証には本件審決が周知慣用技術と認定した技術の一部が示されているだけであるから、それらの技術が周知慣用技術であるとしても、それは、本件審決が周知技術あるいは慣用技術であると認定した第一の技術ないし第三の技術の一部を示すにすぎない旨主張する。しかし、上記(一)の主張は、乙第一号証の二記載の第一の技術ないし第三の技術並びに乙第二号証の二及び第三号証記載の第二の技術が周知又は慣用の技術と認め得ることは前認定説示のとおりであり、また、上記(二)及び(三)の主張は、乙第一号証の二については、同号証の記事掲載後の前認定の事実関係に照らし、乙第二号証の二及び第三号証については、右各号証は煙又は熱感知器の予備電源として専用の応急予備電源が使用されること(第二の技術)の周知慣用性を示すための資料であつて、その自動降下シヤツターへの適用及び具体的構成等を証する資料ではない(本件審決は、これらの点については、第一の技術及び第三の技術並びに第一引用例及び第二引用例を引用している。)ことから、いずれも理由がなく、採用することができない。

そうであるとすれば、本件審決には原告主張の違法の点はなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

スラツトカーテンの巻取降下起動機構を内装する一個の開閉機箱内に、そのスラツトカーテンの巻取軸と連動されるブレーキドラム(3)が設けられており、このブレーキドラム(3)の附近には該ブレーキドラム(3)と接触せしめられるシユー(6)が設けられ、このシユー(6)は一端が不動部に枢着されて揺動自在とされるシユーレバー(5)に固着されており、このシユーレバー(5)には上記ブレーキドラム(3)とシユー(6)とが接触せしめられる方向に該シユーレバー(5)を附勢せしめるばね(7)が取り付けられると共に、このシユーレバー(5)は一端が不動部に枢着されて揺動自在とされるブレーキレバー(13)と連結されており、このブレーキレバー(13)の一部は一端が不動部に枢着されて揺動自在とされるロツクレバー(17)の腕(17c)と係合自在とされ、このロツクレバー(17)には、上記ブレーキレバー(13)の回動により上記ブレーキドラム(3)とシユー(6)との接触が解かれた際における該ブレーキレバー(13)の上記腕(17c)との係合回動位置を保持させるばね(18)が付設されており、さらに上記ブレーキレバー(13)は、別途煙または熱感知器等の作用によつて専用の応急予備電源により動作されるソレノイド(8)の作動杆(8a)と連結されてなる構成とされたことを特徴とする自動降下シヤツターにおける自動降下装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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(以下省略)

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